ブレイディみかこ「他者の靴を履く」

気になる本棚

コロナによる世界的なロックダウンとその直後、というまだ記憶にも新しいはずの情勢がこの書ではリアルタイムで描かれているのだけど、この病気についての世の中の認識も短い間に激変してしまって、そういえばあの頃はそんなだったっけ?と自分も相当に喉元過ぎればなんとやらの鳥頭だったりする。

ここで扱われる「エンパシー」というのは他者の感情や経験などを理解する力。「シンパシー」が人の内側から比較的自然に湧く心情的なものであることと対比して、一種のリテラシー的な意味合いで掘り下げられる。もちろん手放しの「善」ではなく悪用することでサイコパス的行為や忖度の行き過ぎからくる民意の空洞化といったような側面も。

冒頭に書いた2020年後の著者の住む英国でのCOVIDについての社会的な現象から遡って、サッチャー政権下の状況の振り返り、またドナルド・トランプというキャラクターがなぜ米国で一定の支持を受けるのかという考察を、「エンパシー」という軸に基づいて検証していく。日本に置き換えると小泉政権下とか、震災後のこと、その後の安倍政権なんかが引き合いに出されそうなところ。

著者の掲げる「アナーキズム」が、大元の意味での「リベラリズム」に近いのではないかと感じるのだけれど、それは自分がただ勉強不足なだけだろうか。まず「リベラル」という言葉がサヨクっぽくなる時点ですでに本来の意味と乖離がある気がするし、ネオリベに至っては本来の定義もなにも、もはや何かの蔑称としてしか使われていないんじゃなかろうか。

いっそ後半に引用されるシュティルナーの提唱したエゴイズムが個人的には興味深い。その前に金子文子や伊藤野枝という、ずっと気になっているけど遠巻きにチラ見ばかりでいた著作について、まだなんとか読書体力が残っているうちに読んでおかないと本当に後がない気がしてきた。さて、間に合うだろうか。

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