目指し続ける生活。 森まゆみ「じょっぱりの人 羽仁もと子とその時代」

気になる本棚

30代前半の本の数年間だけ、”友の会”に所属していた時期がある。

まず”友の会”を一言で説明すると、明治に創刊されて今も続く家庭雑誌「婦人之友」の読者の会で、全国・海外にも支部があって、地域の「もより」を最小単位班として班活動をしている団体になる。

活動内容としては婦人之友の創刊者でもあり、自由学園の創設者でもある羽仁もと子(1873~1957)の思想に共鳴して生活から社会をよくする、とでも言ったらいいのだろうか。具体的には衣食住+家計・教育を理想的な形に整える技術を学ぶグループ活動。早くに家を離れて家族を持った自分は、家事については自分の親からより友の会で学ばせてもらった。家事スキルは大して上達もしないうちに会を離れたが、特に家計簿については婦人之友社発行の家計簿を基にExcelにカスタマイズしたものを今も続けている。

YouTubeでリベ大の両学長が配信されていた家計についての考え方も基本が友の会の家計の考え方と相通じていることに驚いた記憶は割と新しい。

「思想しつつ生活しつつ祈りつつ」という羽仁もと子の思想には深く共鳴するものもあったし、友の会が提案するいき届いた簡素な暮らしは今でも自分の理想ではあるけれど、得てしてそのとおりにいくものではないからこその理想だということも痛いほど感じて、結局自分はほんの数年で友の会を離れる決断に至った。自分の不徳というしかないけれど、今も後悔はない。

森まゆみの本作はともすれば神格化されがちな羽仁もと子の軌跡を客観的に、生きた時代背景と合わせて掘り下げている。特に長女との親子関係、また戦争に対して決して反戦主義者として筋を通す姿勢ではなかったということを手厳しく抉り出しているのはコロナ禍に始まった連載の途中ウクライナ戦争、ガザ空爆という状況下で著者にも思う所大きかったのではないだろうか。革新的な発想とそれを実行するバイタリティに溢れた羽仁もと子でさえ、時代の感覚や集団心理というものから完全に自由ではなかったということ。

だからこそ聞こえてくるものは本当にそうなのか、見えていることは本当にそれで正しいのか、凡愚なりに考え続けるしか。

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