ひょんなお誘いで観に行ってきた。これまでヴィム・ヴェンダースは嫌いでもないけどそんなに好きでもないという感じだったけど、これについてはまたいつか繰り返し観たいくらい。
トイレ清掃を生業とする平山（役所広司）は毎日のルーティンをただ淡々と繰り返しながら、若い同業のタカシ（柄本時生）に「いい年してこんな仕事で結婚もしないで何が楽しいのか」などと悪気なく言われたりしながらもその仕事に倦むこともない。朝は日が昇る前からカセットテープでベルベットアンダーグラウンドやパティスミスといった曲を聴きながら仕事に出かけ、夕方になれば開店したばかりの銭湯で汗を流して行きつけの居酒屋で食事をし、古本屋の100円コーナーの文庫を片手に眠りにつく。時にはスナックへ出かけ、ママ（石川さゆり）の歌に耳を傾ける。
いつもと変わらない毎日の繰り返しに見えて、タカシやタカシが熱を上げているガールズバーのアヤ（アオイヤマダ）、突然家出してきた姪ニコ（中野有沙）、彼女を迎えにきた妹（麻生祐未）といった、スナックのママを訪ねてきた元夫（三浦友和）の存在に心を揺らされながらも、自分の選んだ生活をただ続ける。
アナログへの拘りという表現の一つではあるのだろうけど何年もヘビロテで聴き続けてしかも車内に置きっぱなしのカセットテープなんぞ伸びてしまってとてもじゃないけど値段のつく代物であるわけがないのでは？とか、10代前半であろう設定の姪がいる主人公の年齢設定はいったい幾つなのか？とか、重箱の隅つつきたくなるところは少しあったけども、まぁそれはそれとして。
この映画の何がいいって、主人公が1日を1日として完結させるというところ。自分にとって扱いきれる仕事の量を決めてその中で質を追求していて、同じく人間関係にしても自分の決めた範囲の中でここちよい密度を崩さない。時にちょっと舞い上がったり、胸が絞めつけられるように切なくなっても、自分の中で決めた節度を守り続けることができる人なのだ。
こんなふうにあれたら、という虚構像だとしても。
この後、映画に誘ってくれた前の会社にいまでも務めているM先輩と、そして同じく10年以上前からそこでお世話になっていたNさんと合流して飲み会。そこでもまた思うところ色々で、その話はまたあらためて。
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